CLIPS

CLIPS(C Language Integrated Production System)は、生産系ルール作業記憶推論エンジンを備えた、エキスパートシステムを構築するためのシェルです。OPS5 の流れを汲む系譜としてよく説明されます。

NASA と開発のきっかけ

CLIPS は NASA(アメリカ航空宇宙局)のジョンソン宇宙センター(JSC) で、1980 年代半ばに開発が進められました。主な開発者として Gary Riley らの名が文献で繰り返し挙げられます。

当時、宇宙ミッションや地上運用では、専門家の判断をソフトウェアに載せるニーズが高まっていました。一方で、研究コミュニティでは OPS5 のような生成規則システムが注目されつつも、Lisp 環境に強く依存するなど、組み込みや配布のしやすさの面で現場向けのハードルもありました。

CLIPS は、そのギャップを埋めるために、移植しやすい C 言語と統合できるエキスパートシステム基盤として位置づけられた、という理解で差し支えありません。名前の C Language Integrated は、その方針をそのまま表しています。

何が欲しかったか(設計上の動機)

ざっくり整理すると、次のような要求が重なっていたと読めます。

  • 移植性: 多くの計算機や組み込み環境で動かしやすいこと。
  • 実用性: ルールと事実を素直に書き、前向き推論で回せること。
  • 教育・再利用: 社内外で同じパターンを学び、資産として積み上げやすいこと。

NASA の文脈では、安全性や運用手順と結びつく判断を、属人化したスクリプトではなく、検証しやすいルール形式で扱いたい、という動機も背景にあったと考えられます(詳細は当時の個別プロジェクト資料に依存します)。

OPS5 との関係

CLIPS は **OPS5 のアイデア(生成規則・作業記憶・パターンマッチ)**を引き継ぎつつ、実装言語と提供形態を C 寄りに振った系譜として説明されることが多いです。
「OPS5 の小型で移植可能な兄弟」のようなイメージで捉えると、歴史のつながりが掴みやすいです。

公開とその後の広がり

CLIPS は 1986 年ごろにパブリックドメインとして公開された、という説明が一般的です。以後、大学の講義・AI の教材・産業のプロトタイプなどへ広く流れ、エキスパートシステム全盛期の「手に取れる実装」の代表格の一つになりました。

バージョンは時系列で積み上げられ(CLIPS 6.x など)、オブジェクト指向の拡張なども後から加わります。いまも文献や遺産コードの中で参照される一方、新規開発の主役は他のスタックに移りつつある、というのがおおまかな現状です。

ざっくりいうと

if-then 形式のルールを大量に持ち、事実(fact)を作業記憶に置き、前向き推論を中心に結論やアクションを導きます。組み込みや教育、研究で長く使われてきました。

他との違い(目安)

  • Drools と比べると、言語が C 系シェルであり、JVM や企業 BRMS の周辺機能(永続化ポリシー、ワークベンチ一体運用など)は自分で組み立てる前提に近いことが多いです。
  • SOAR / ACT-R認知アーキテクチャ)とは目的が異なり、CLIPS は 認知モデル全体ではなく、ルールベース推論エンジンが中心です。
  • PyKEロジックプログラミング領域のノート)は Python 統合が前提で、CLIPS はスタンドアロンのルール言語として使われるイメージが強いです。

関連